新井みなみ選手ロングインタビュー

スポーツ大好きな子がゴールボールに挑戦。「長身を生かしたプレーでチームに貢献したい」

新井みなみ選手プロフィール

ポジション

レフト

クラブチーム

Merveilles(メルヴェイユ)

所属

アソウ・ヒューマニーセンター

2003年1月22日、埼玉県生まれ。先天性の視神経萎縮による弱視だったが、小学校・中学校は普通校に通い体操や水泳などスポーツを行う。高校から埼玉県立特別支援学校塙保己一学園に入学後フロアバレーボールを始め、高校卒業後に進んだ大阪府立大阪南視覚支援学校専修部柔道整復科時代の2022年夏に全国優勝する。ゴールボールには高校時代に出合い、2021年にはトップアスリート発掘事業(J-STARプロジェクト)に選抜され、同年秋から日本代表強化指定選手に。2023年4月に現所属先に移籍。2023年10月開催のアジアパラ競技大会日本代表に初選出されるなど今後の活躍が期待される新星。

■私も、あの場所に立ちたい!

――強化指定選手に選ばれてまだ約2年という新井さんですが、今年(2023年)3月のジャパンパラ競技大会(東京・立川)では日本代表に初選出され、アメリカ戦では2得点するなど活躍が印象に残っています。ご自身としてはいかがですか?

国際大会デビュー戦だったので、チームの脚を引っ張らないようにと思っていましたが、得点できて自信になりましたし、2試合を無失点できたこともよかったです。日本での開催で、今までお世話になった人たちが観戦に来てくださって、応援も力になりました。

――初の国際大会で手応えがあったんですね。国際大会といえば、8月のワールドゲームズで日本女子チームはパリパラリンピックの出場権はあと一歩で逃しましたが、過去最高位となる準優勝を果たしました。先輩たちの活躍は見ていましたか?

はい、見ました。(準優勝という)結果はちょっと悔しかったけど、先輩たちは合宿でやってきたことを発揮して、世界で通用する戦いをしていて、すごくかっこ良かったです。私もあの場に立ちたいなと思いました。

ーーご自身が世界で戦う姿をイメージしていたのですね。

はい。でも、自分は本当に活躍できるのかなとか、緊張して動けなそうだなとか。まだまだ先輩たちには届かないなと思いました。もっと練習しないと…。

ーーいい刺激をもらえたようですね。新井さんも次は10月22日に開幕するアジアパラ競技大会の代表に選ばれていますね。

総合大会では初めての代表になります。選ばれた以上は選ばれなかった人たちの分も戦わないといけないし、日本を背負って戦わなければいけないなと思っています。

しっかり声を出しながら今できるプレーを確実にやって、失点せずに1点は獲りたい。そして、日本の金メダル獲得に貢献したいです。

ーープレッシャーも力にして、ぜひ頑張ってくださいね。

■ずっと、スポーツをしてきました

――では改めまして、今日は新井さんのことをいろいろ教えてください。まずは先天性の弱視と聞きましたが、今の見え方は?

生まれつきの視神経委縮という病気で、大きな文字の看板などは読めますが小さい文字は近くても見えません。買い物で商品説明が読めないとか、待ち合わせで相手の顔が見つけにくいといった不便さがあります。

――見えにくい中で、どんな子ども時代を過ごしたのですか?

体を動かすことが大好きで、ずっとスポーツをしてきました。5歳から体操を始めて小学校卒業まで続けました。また、小学校に入ってからチアダンスと水泳も始めて3つの競技を掛け持ちしていました。どれも楽しかったです。

――3競技を掛け持ち!? スポーツ好きなのはご家族など、どなたかの影響でしょうか?

いえ、家族の中でスポーツをしているのは私だけなんです。でも、いつも応援してくれています。

――応援は心強いですね。さて、新井さんは小学校、中学校は普通校でしたが、高校からは盲学校に進学されています。その理由は?

小・中学校では黒板やプリントの文字が読めないなど学校生活には不便さを感じていましたが、中学3年のときに盲学校の存在を知ったので家族から勧められました。ただ最初は、私には盲学校イコール全盲の人の学校というイメージがあり、友だちもできないだろうとか、部活動もなくてスポーツもできないだろうとか気が進まなくて……。

――そうでしたか。入学してからも辛かったですか?

それが、入学式の日に盲学校のイメージがガラッと印象が変わったんです。3年生の先輩たちが新入生を歓迎してくれたのですが、その中に今の男子日本代表の佐野(優人)さんもいて、部活動に勧誘されました。何より見えている人(弱視)もいるんだと分かって安心しました。

――心強いですね。佐野先輩に誘われたのはゴールボール部ですか?

いえ、その時はフロアバレーボール部です。視覚障害者でも思いきり体を動かしてやれるスポーツがあるんだと分かって嬉しかったし、大会にも出られて楽しくて、すぐに夢中になりました。

――なるほど。では、ゴールボールにはどうやって出会ったのですか?

最初は高校の体育の授業だったと思いますが、ちゃんと知ったのは1年の秋に参加した「ゴールボールキャンプ」です。学校の先生から「一度、体験してみたら」と紹介されたことがきっかけです。

――日本ゴールボール協会が主催している初心者向けのキャンプですね。それで、ゴールボールに興味をもったのですか?

いえ、その時はゴールボールにそこまで興味をひかれませんでした。2泊3日のプログラムで、ディフェンスのしかたやボールの投げ方などゴールボールの基礎を教えられ、最後にゲームをやりましたが、ボールが体に当ると痛いし、すごく難しくて。何よりもアイシェードをして見えない中で動くということが本当に怖かったからです。

キャンプの後、佐野先輩や萩原(紀佳)先輩たちに誘われて、関東の盲学校のゴールボール対抗戦に学校代表で参加することになりました。大会では優勝して、先輩たちからはゴールボールを続けるように誘われましたが、そのときは、フロアバレーボール部を頑張ろうと思いました。

――それが2018年のこと。でも、2021年の秋にはゴールボールの日本代表強化指定選手に選ばれています。どんなふうに気持ちが変化したのですか?

きっかけは2021年の夏に開催された東京パラリンピックです。高校のOBOGである萩原さん、佐野さん、金子(和也)さんが日本代表として出場していたので、テレビで夢中になって応援しました。世界で戦う先輩たちは輝いていてカッコいいな、私もパラリンピックに出たいなと思いました。

――どんなところが輝いているように思ったのですか?

プレーも素晴らしかったし、(インタビューなどの)礼儀やマナーも含めて応援したくなる選手だなとか、周りに影響を与えるってこういうことなんだと思いました。また、結果を出してお世話になった人たちに恩返ししている姿を見て、私もそんな選手になりたいと憧れました。

■やり遂げた充実感と世界への思い

――東京パラリンピックがあった2021年には、新井さんは高校を卒業し、大阪南視覚支援学校の専修部柔道整復科に進んでいますね。

はい、将来的にスポーツ関係の仕事に就きたいなと思い、専門学校に進学しました。部活動でフロアバレーボールも続けましたが、2年生だった2022年の夏には全国大会で優勝できました。

――頑張って続けてきたかいがありましたね!

はい、両親も会場の山口県まで応援に来てくれたので、やっと恩返しができたかなと思いました。

この先どうしようかと考えたときに、東京パラで先輩たちがゴールボールで輝いていた姿を思い出して、世界で戦ってみたいと強く感じたんです。そして、「これからはゴールボールに専念して世界を目指そう」と気持ちが切り替わりました。

――「ゴールボールに専念して」というのは? フロアバレーボールと、“二刀流”だったのですか。

そうなんです。学生の部活動としてフロアバレーボールに取り組んできましたが、実は高1のときに参加したゴールボールキャンプで先輩や協会の方とつながりができたこともあり、東京パラリンピック後の2021年10月末、専門学校1年のときに初めて日本代表の強化合宿に呼んでいただきました。その後、強化指定選手にも選んでいただいたので定期的に合宿にも参加するようになりました。また、クラブチームにも入って日本選手権を目指すなどゴールボールの練習も並行して行っていました。

でも、大阪にはゴールボールの練習場所がなかったので専門学校の休学を決めて、2023年4月から今の所属先に移りました。

――卒業まであと1年というタイミングで休学ですか? 大きな決断でしたね。

ゴールボールで頑張って、パリパラリンピックに出たいと思ったからです。最初に相談した父には、「本当にやりたいなら、応援する」と言ってもらえました。でも、母からは「卒業まで、あと1年なのに」と反対されてしまって、私の希望を理解してもらえるまで時間がかかりました。

――どう説得したのですか?

東京パラリンピックで先輩たちの活躍を見て刺激を受けたのでゴールボールで世界を目指したいこと。強化指定選手にも選ばれているので、これから頑張ればランクも上がり、チャンスも広がっていくこと。とにかく、ゴールボールで頑張りたいという私の思いや可能性を一生懸命に伝えました。

それと、私は知らなかったのですが、市川(喬一)監督も母と会って話してくれたようです。代表活動について説明したり、今の所属先も探してくれたりしたおかげもあって、母の気持ちも変わり、今では応援してくれています。

――それは心強いですね。ところで、初めてゴールボールキャンプに参加したときのエピソードとして、「アイシェードで全く見えないことが怖かった」と話してくれましたが、今はいかがですか。

はい。恐怖心は練習で慣れていくうちになくなったし、今ではアイシェードがあるからこそみんな同じ条件でプレーできて、そこがゴールボールの面白さだと思っています。だから、チームで声を掛け合って協力しあうことも大事です。難しいけれど、私も声を出すように頑張っています。

■選手として、人として、学び多き日々

――ゴールボール専念を決めてから、練習環境も含めて生活はどのように変わりましたか?

週末は合宿か練習会に参加します。月曜日は出社日ですが、合宿明けはオフです。火曜と金曜はフィジカルトレーニングをしています。水曜・木曜は出社日で、その夜は所沢市の練習会に参加というのが基本パターンです。忙しいけれど、ゴールボールが思いきりやれる環境に変りました。

――お仕事内容について教えてください。

会社は人材派遣や転職支援などの事業を行っていて、私は主に障害者スポーツ選手雇用センター「シーズアスリート」で所属選手の活動報告としてYoutubeの撮影や編集に関わったり、会員企業情報の収集や共有を担当しています。

また、(同僚でもある)萩原先輩など私よりも見えにくい社員の視覚サポートもしています。資料を読むなど目の代わりをします。

――幅広いですね。入社して半年くらいですが、慣れてきましたか?

ゴールボールという好きなことが仕事になったのはうれしいのですが、社会人としてのマナーや会食の席でのふるまい方など社会経験が少ないので戸惑うことも多いです。視覚障害もあるので助けていただくことも多く、いろいろ頑張らないと……。

――まだ20歳、お酒のお付き合いなどは難しいですよね。そこは誰もが通る道、これからですよ!

はい、少しずつ勉強します。ゴールボールも業務の一つなので、結果を出すことで会社に貢献できればと思っています。

――では、ゴールボールに本格的に取り組むようになってから、新井さん自身に変化を感じることはありますか?

団体競技だし、合宿も多いので、人との関わり方やマナー、礼儀を教わっています。「報連相(ホウレンソウ=報告・連絡・相談)」の重要性や人への感謝、当たり前のことを当たり前だと思わないこと……。今まで考えてこなかったことばかり、めちゃくちゃ学んでいます!

――ゴールボールの技術だけでなく、人としての学びも大きい?

はい。まだまだ学び途中なので、ひたすら叱られています。「団体競技だから、みんなと合わせるように」とか、「この間も言ったでしょ」とか……。集団行動が苦手なほうなので、みんなの輪に入ったり、人前で話すことが苦手で、「一人だけ輪から外れている」と言われることも多くて、大きな課題です。

――見えない中で行うスポーツだから、コミュニケーション能力は重要ですね。

そうなんです。「声を出さないと分からないよ」とよく言われます。私、向いてないかもと落ち込むこともありますが、ゴールボールの挑戦は自分で決めたことだから、頑張らなくちゃと思っています。

■自分を変えて、楽しい人生に

――もう少し聞かせてくださいね。新井さんが今感じている、強みはなんですか?

う~ん、今は175㎝の身長しかないです。長身を生かした強いボールやディフェンス範囲の広さで貢献して、チームが少しでも楽になればいいなと思っています。

でも、今はまだ私の失点が多くて先輩たちにカバーに来てもらっている状態で、ふがいないです。音の聞き分けやディフェンスの姿勢などが課題です。

――強化指定選手では一番の高身長は大きな武器として期待大です。課題克服のために努力していることはありますか?

ディフェンスでの瞬発力やオフェンスでのボールのスピードを上げるために、もっと筋力が必要だと思っています。今は筋力を増やして体重を増やすことを目的に、トレーナーさんについてもらって筋力トレーニングを週2回、やっています。以前よりはできるメニューも増えて成長を感じていますが、しっかり食べていても体重はなかなか増えず悩んでいます。

――筋トレの効果はすぐには表れないものですから、そこは伸びしろと考えて、地道な努力が今は必要でしょうか。

そうですね。とにかく、頑張るしかないです。

――では、目標とする選手はいますか?

高校の先輩でもある萩原選手です。攻撃も強いし、ディフェンスもいい。それに、チームの雰囲気をよくしてくれるムードメーカーなので、そんなところも憧れです。

先輩のように私も応援される選手になれるように、練習はもちろん、周囲への感謝を忘れず、礼儀やプレーの態度など全部、見習っていきたいです。

――理想のお手本が近くにいるのはありがたいですね。でも、新井さん自身にも長所があるのではないですか?

負けず嫌いなところですかね。昔から負けたくないって思って頑張ってきました。今も負けず嫌いですけど、ゴールボールではまだ自分自身のレベルが低いので、誰かに対しての負けず嫌いの気持ちというより、自分に対しての悔しさが大きいです。

それに、すぐにネガティブに思ってしまうという短所もあって、それは超課題ですね。ネガティブになったらおしまいなのに……。

ーーなるほど。では、ちょっと変わった質問をさせてください。もしも視力が戻る薬があったら、新井さんは飲みますか? 

う~ん。見えるようになったら車を運転したいという希望はあります。でも、視覚障害があるから今があるし、ゴールボールもできる。同じ障害のある母とも共感し合えています。だから、このまま視覚障害者として前向きに、楽しく生きることを考えたいと思います。

ただ、すぐにネガティブに考えてしまう性格もあって人生が楽しくないと思うときもあるので、自分を変えて人生を楽しく変えていきたい。まずはゴールボールで人生が楽しいと思えるようなプレーができるようになりたいです。

――練習への大きなモチベーションですね。では最後にゴールボールでの具体的な目標を教えてください。

パリパラリンピックの代表になって、その次の2028年ロサンゼルス大会ではスタメンで金メダル獲得が目標です。家族など応援してくれる人たちに恩返しができるように頑張ります。

――ゴールボール選手としてのキャリアはスタートしたばかり。素敵な人生となりますよう応援しています。今日はありがとうございました。

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