【オリオンJAPANを輝かせる星たち】日本代表スタッフロングインタビュー(1)

ゴールボール日本代表の愛称「オリオンJAPAN」は夜空に輝くオリオン座に由来します。中央に並ぶ三つ星がコート上の3選手をイメージさせるだけでなく、三つ星を取り囲む4つの星がベンチのコーチや控え選手、チームスタッフなどコート外の人々の姿をも想像させ、チーム一丸の連携が欠かせないゴールボールを体現しているからです。今回は、そんなコート外から選手を支えるチームスタッフに注目しました。

決戦の舞台パリパラリンピックへ、選手たちを最高の状態で送り出したい!

前田規久子(まえだ・きくこ)/ゴールボール日本代表トレーナー・ストレングス&コンディショニングスペシャリスト、NTC競技別強化拠点責任者補佐

1972年11月12日兵庫県神戸市生まれ。小学校から高校まで剣道部、大学では体育会のテニス同好会で活躍。甲南大学経営学部卒業後、整骨院やスポーツジム等でアスリートのトレーニングやリハビリなどトレーナー業務に従事。2001年から2021年まで国立スポーツ科学センターに勤務など。2021年10月から現職。

■オリオンJAPANとしての役割

――前田さんは2021年10月から、日本ゴールボール協会(JGBA)所属のトレーナーとしてオリオンJAPANを支えていらっしゃいますが、役割の内容から教えてください。

トレーナーといっても体のケアではなく、競技力向上を目的に選手個々のウエイトトレーニングなどのプログラムを作成したり、トレーニング時のサポートを中心に行っています。肩書は「ストレングス&コンディショニングスペシャリスト」です。

前職は国立スポーツ科学センター(JISS)のトレーナーでした。当時から他の競技と並行してゴールボールチームにも関わっていましたが、JISSの任期終了のタイミングでJGBAよりお声がけいただき、現在の役職でより深く関わるようになりました。

――具体的にはどのような仕事になりますか?

競技中のパフォーマンスを見て、選手それぞれの弱い部分を強化するためのトレーニングメニューを加えるなど、トレーニングの効果をパフォーマンスに最大限生かせるようなプログラムを作っています。例えば、「守備姿勢改善のために体幹を強化しよう」とか、「脚の出し方をよくするための筋力強化やパワー発揮のトレーニングを加えよう」といったアドバイスをしています。

――なるほど。もう一つ、前田さんには、「NTC競技別強化拠点責任者補佐」という役割もあると聞いていますが、こちらは?

ゴールボール競技のNTC競技別強化拠点として指定されている所沢市民体育館での自主トレーニングで、私が責任者として他のスタッフと協力しながら、練習を運営しています。また、体育館でのゴールボール練習だけでなく、「前田部屋」と呼ばれるウエイトトレーニング専用ルームで、予約制の個人トレーニングも行っています。

――「前田部屋」ですか!? もう少し詳しく聞かせてください。

10畳ほどのスペースを確保してもらって、そこにスクワットラックやプレート、ダンベルなどトレーニングに必要な用具が揃えてあります。小規模ですが、充実したトレーニング環境になっています。

ゴールボール練習の前に、定期的にトレーニングを実施する選手や、ウォーミングアップとして体を動かす選手、または補強として体幹トレーニングを実施する選手など、目的に応じて前田部屋はうまく活用されています。

所沢の練習は強化合宿と違って自由参加なので、強化指定選手のほか、ユースや育成レベルの選手、選手発掘プログラム(J-STAR)の合宿なども対応しています。

――競技の現場とウエイトルームが隣接し、連動しているのはすばらしい練習環境ですね。

■ゴールボールと出会うまで

――JGBAに所属される前にはJISSにお勤めでした。トレーナーになった経緯を教えてください。

最初からトレーナーを目指していたわけではなく、いろいろなご縁のおかげで、今の私があります。スポーツ経験は小学校から高校までが剣道部、大学では体育会のテニス同好会に入りましたが、スポーツジムにも入会し、そこでウエイトトレーニングとエアロビクスにはまりました。

経営学を専攻していた大学4年のとき、西宮市で阪神淡路大震災に遭い、自宅も全壊するなど被災者になりました。「明日は何が起こるか分からない。だったら、好きな仕事に就きたい」と思って、大学卒業後はしばらくアルバイトをしながら、「好きな仕事探し」をしていました。

ある時、スポーツジムを通して知り合った友人がきっかけで、西宮の整骨院で受付の仕事を始めたのですが、その整骨院に隣接しているスポーツジムで欠員が出たというので、見習いとしてトレーナーの仕事に就くことになりました。

――トレーナーの資格を持っていたのですか?

いえ、全く。ただ、見習いを始めてから独学で勉強し、アメリカの資格2つを取得しました。NSCA認定パーソナルトレーナー(NSCAーCPT)とストレングス&コンディショニングスペシャリスト(CSCS)という資格です。

また、現場での実践としては整骨院の親会社であるプロフェッショナルトレーナーズチームという会社に所属して、高校のテニス部を担当したり、バスケやアメフト、運動部に通う選手たちのサポートをしたり、専門学校の講師をしたりして、いろいろな経験を積ませていただきました。

JISSに応募したのも、ある講習会でお世話になった先生とのご縁がきっかけです。2006年のことで、当時はまだ女性のトレーナーが少なく、採用されたようです。

――JISSでゴールボールと出会ったとのことですが、パラスポーツはいつから担当されたのですか。

パラスポーツが厚生労働省から文部科学省に移管された2014年にJISSでも受け入れが始まったので、担当を希望しました。

ただ、実はJISSで働く前から、「パラリンピックを目指す選手をサポ―トしたい」と思っていたんです。

――パラスポーツを希望されたきっかけは?

車いす陸上の土田和歌子選手です。西宮の整骨院に土田選手がいらしたんです。トレーニングへの姿勢も立ち居振る舞いもカッコ良くて、直感的に「いつかパラの選手を担当したい」と思っていました。

そんな希望がかなって、2014年以降はオリンピック競技に加えて、パラスポーツも担当するようになり、その一つがゴールボールだったんです。

■ゴールボール選手たちと向き合うなかで

――トレーニングプログラムを作成するにあたって、ゴールボール特有のことはありますか?

そうですね。ゴールボールは体全体でボールを止めるという点が特徴的なので、ボールに打たれ負けない強い体やパワーが必要です。また、ボールに触れてから10秒以内に投げ返すというルールもあるので、瞬発性も必要ですし、そういう動きを精度高く、長時間繰り返し続けられる持久力も必要です。

そういった要素を考慮し、効果的に強化できるトレーニングプログラムを考えています。

――何か、難しさなどはありますか?

プログラム作りでは基本的に他の競技とそれほど変わりません。ただ、視覚障害がある選手たちに、トレーニング方法や動きを説明することが難しいです。動いている私の体を触ってもらってイメージしてもらうことも多いですが、触れない動きもあります。動作をどう言語化して伝え、正確に再現してもらうかに難しさがあります。

たとえば、先天的な全盲の選手の中には走る、飛ぶといった動作をイメージしにくい選手もいて、私も適切な言葉が見つけられずに苦労しました。

――たしかに、走る、飛ぶなどは基本的な動作なので、言葉で説明されるというより、見よう見まねで身に着けてきた動作かもしれません。

そうなんです。それに、「全力で走る」とか「すばやく動く」ことが難しい選手もいます。たとえば、心肺機能を高めるために心拍数を上げるトレーニングは全力で負荷をかけないと効果が出にくいのですが、「全力疾走で」と指示しても、恐怖感からでしょう、本人は全力で走っているつもりでも、どこかでリミッターがかかってしまう選手が多いんです。

幼い頃に思いきり走った経験がない選手が多いと思いますし、不安なく安全に走れる環境も少ないので、伝え方が難しいと感じています。トレーニング用の固定バイクを全力で漕ぐトレーニングなどに置き換えたり、できるだけ個別に対応して選手の意識改革もしながらトレーニングを進めています。

――なるほど、工夫の必要があるのですね。では、JISS時代と違って、チームに深く関わるようになった今、改めてゴールボールやチームに対して思うことはありますか?

選手みんなを尊敬しています。見えないなかで、あれだけの動きができる空間認知能力の高さや、感覚を研ぎ澄ませて自分の体の中心を把握し、動きやフォームを修正できるところも、本当にすごいです。

それに、ゴールボールはチーム競技だからでしょうか。選手同士はもちろん、スタッフも含めて、「一緒にやろう。皆で向上していこう」という意識が強く感じられて、私も心地よくお仕事ができています。

ただそれだけに、結果が残せなかったのは私の責任ではないかと思っている部分もあります。

――結果が残せなかった、というのは? 昨年は男女とも最大目標だったパリパラリンピックの出場権も獲得しましたが?

私は主に女子チームを担当していますが、私が関わるようになってからパリ出場権を獲るまで苦しみましたし、3大会連続で中国に負けて銀メダルに終わっています。

女子の最大の武器は守備力ですが、後半に失点する試合が多かったのは体力不足やそのために心拍数が上がって集中力が切れてしまったことも要因だと思います。オフェンスで強いボールを投げるためのパワーも不足していたなとか、私のトレーニングが足りなかったからではないかという反省の思いがあるんです。

■パリを見据え、さらなる挑戦

――パリへの出場権だけでなく、目標がもっと高いところにあるからでしょうか。トレーニング面で、新たな取り組みなどはありますか?

はい。パリで金メダルを獲得するために、「ゴールボールステップ」を新バージョンにしました。これはサーキットトレーニングの一種で、ゴールボール特有の「寝て、立ち上がって、投げる動作」を繰り返すものです。以前までは投球はシャドーで行っていましたが、昨年12月からはボールも使うようにしました。スタッフが選手のお腹に向かってボールを投げ、選手はボールをキャッチしたらすぐに立ち上がって投げ返すことを数回繰り返します。

心拍数が上がったあとに、いかに早く平常値に戻せるようになるかがトレーニングの目的ですが、バイクトレーニングと違って全身運動ですし、何より重さ1.25kgのボールを投げ続けるというトレーニングに効果があると考えています。

――競技で使う動作と組み合わせた、より実戦的なトレーニングというわけですね。

はい。選手は「想像以上にきつい」と言っていました。この「ゴールボールステップ」数セットと体幹トレーニングなどを組み合わせたり、ボールを投げ返す方向にも精度を求めていくなど、今後さらにベストな形を探っていきたいと思っています。

――きついからこそ、効果が期待されますね。他にパリパラリンピック本番に向けて計画されていることはありますか?

大会が開幕する8月にピークが来るようにウエイトトレーニングの期分けも組み直しました。コンディションの良い状態を保ちながら、強化のためにギリギリのところも攻めていきたいと思っています。

――攻める、とは?

ウエイトの重さや挙げる回数などについて、選手ごとに限界ギリギリの値をよりシビアに見極めながら、かつ動作スピードもコントロールしながら、8月に最大限の力が発揮できるように強化していきたいと思っています。

パリパラリンピックという目標が定まって、さらにスイッチが入ったのか、最近は選手たちのトレーニングへの取り組み方にもより積極性が感じられます。中国に勝てなかった悔しさもモチベーションになっているのではないでしょうか。

私の仕事は大会に送り出すまでが勝負。パリに向けて最高の状態にもって行けるように頑張ります。

――前田さんの活動も注目しています。ありがとうございました。

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