【オリオンJAPANを輝かせる星たち】日本代表スタッフロングインタビュー(2)

ゴールボール日本代表の愛称「オリオンJAPAN」は夜空に輝くオリオン座に由来します。中央に並ぶ三つ星がコート上の3選手をイメージさせるだけでなく、三つ星を取り囲む4つの星がベンチのコーチや控え選手、チームスタッフなどコート外の人々の姿をも想像させ、チーム一丸の連携が欠かせないゴールボールを体現しているからです。今回は、そんなコート外から選手を支えるチームスタッフに注目しました。

世界の頂点を狙うチームの一員である喜びを胸に、ともに戦っています!

彼島奈々(かのしま・なな)/ゴールボール日本代表トレーナー

1996年7月7日神奈川県生まれ。中学から大学までハンドボール部で活躍。法政大学卒業後、東京医療学院で理学療法士資格を取得、日本女子体育大学大学院スポーツ科学修士課程修了など。2023年4月から横浜市スポーツ医科学センターリハビリテーション科に勤務しながら、現職も兼務。

■オリオンJAPANとしての役割

――彼島さんは2023年4月から、日本代表トレーナーとして活動されています。まずは具体的な役割から教えてください。

はい。大きく2つの役割をいただいています。1つは強化合宿に参加して、練習のサポートや選手のコンディション管理をしています。痛みやケガの対応に加え、練習後にも痛みや疲労度をチェックして、ケアやアドバイスも行います。

――どのようなケアを行うのですか?

理学療法士として、主には筋肉の硬いところを緩めたり、筋肉が硬くなると骨の配列であるアライメントも崩れるので、そこを修正したり、狭まった可動域を改善したりといったことです。

――痛みやケガについて、ゴールボール選手ならではの特徴などは見られますか?

手首周りのケガは他競技より多いと思います。ゴールボールのボールの大きさはバスケットボールと同じで、1.25㎏と重いため、ボールを持つだけでも前腕に大きな負担がかかります。前腕の筋肉が張ってくると手首の動きが硬くなって痛みが出る原因になることもあります。

また、ボールを投げる時に身体をひねり、ボールのリリースも低い位置で行うため、ひざ痛や腰痛を訴える選手も多いです。体の使い方や投げるときの踏み込み方、股関節周りの柔軟性も関係します。投げる時にちゃんとお尻の筋肉を使えるようにするなど、フォームを改善することで防げるケガもあります。そういうアドバイスもしています。

――ケガを未然に防ぐようなアドバイスも行うわけですね。

はい。選手はトップアスリートなので、皆、自己管理をしています。ほぐす箇所やほぐし方を伝えて、選手自身にやってもらうことも多いです。

――なるほど。それでは、2つ目の役割について教えてください。

「ベンチトレーナー」という役割で、試合のベンチに入ってスコアを書いたり、給水ボトルを配ったり、選手に試合の残りタイムを伝えたりします。

――ベンチにも入るのですか? 少ないスタッフで役割を兼務しながら、ということでしょうか。

そうだと思います。ただ、ゴールボールのルールには、「ノイズ」や「イリーガルコーチング」などベンチスタッフが関係するペナルティーもあります。ベンチスタッフがそんな責任を負う競技は他にはあまりないのではと少し驚いたし、最初はプレッシャーも感じました。

ただ、ベンチトレーナーとして責任を感じる分、スタッフである自分も選手と一緒に戦っている感覚も強く感じられます。今は責任があるからこそ、楽しいのかなと感じています。

――ベンチコーチとして初めて入った試合はいつですか?

2023年5月の海外遠征、スウェーデンで行われた国際大会です。代表トレーナーになって、まだ1カ月半だったので、プレッシャーや緊張感は大きかったですが、いい経験になりました。

――なるほど。ベンチコーチも兼務するトレーナーというのは興味深いです。のちほど、また詳しく聞かせてください。

■ゴールボールに関わるようになったきっかけ

――では、改めてゴールボールに関わるようになった経緯として、まずは理学療法士を目指した理由から教えてください。

はい。幼い頃からスポーツ好きで、将来はスポーツに関わる仕事をしたいと思っていました。ハンドボール部だった高校3年のとき、左ひざの前十字靭帯を損傷し手術を受けたのですが、リハビリ期間中に理学療法士にお世話になって、目指すようになりました。

――大学で学ばれたのですか?

いえ、大学時代は競技生活と並行して学生トレーナーを経験しながらアスレティックトレーナーの資格を取得しました。理学療法士は大学卒業後に、横浜市スポーツ医科学センターで、リハビリ助手としてアルバイトをしながら、専門学校の夜間部で4年間学びました。今は同センターで勤務しています。

――アルバイトしながら、夜間部で4年間! 頑張りましたね。そして今は、ゴールボールのチームトレーナーだけでなく、お仕事もされているのですか?

はい。ゴールボールには合宿や海外遠征のときに参加し、日常的にはリハビリテーション科に勤務し、患者さんに対して、状態を評価して、トレーニング指導や物理療法などを行っています。主にひざ痛や腰痛などを抱えるお年寄りや運動愛好家、スポーツをしている学生さんなどを担当しています。ケガへの対応力など臨床での経験を、ゴールボールチームにもいかせればとも思って取り組んでいます。

――では、ゴールボールとはどのように出会ったのでしょうか?

職場の上司である、藤堂(愛)さんがきっかけです。

――藤堂さんといえば、2019年からゴールボールチームにトレーナーとして同センターから派遣されていますね。東京パラリンピックでもコーチなどで活躍されました。

はい。東京パラリンピック後に、センターからもう一人スタッフを派遣することになったそうで、私が推薦されました。当時、私はゴールボールについて、「藤堂先輩が関わっている競技」といった知識しかなかったので不安でしたが、「体育会での学生トレーナー経験もあるから大丈夫」と背中を押していただき、挑戦することにしました。

――実際に関わってみて、いかがですか?

視覚障害のある選手たちがとても躍動的で、「こんなに激しいスポーツなんだ!」というのが第一印象でした。

それに、選手たちの感覚の鋭さにも驚きました。ボールが当たった音だけで、その場所が手先なのか腿なのか体幹なのかなどを聞き分けたり、当たったボールがどの方向に飛んでいったかまで正しく判断できているからです。また、コート内で激しく動き回っているのに、味方同士で衝突することもない。「ほんとにすごいな」と、いつも選手みんなを尊敬しながら見ています。

■トレーナーとして大事にしていること

――馴染みのなかった競技の選手をケアするにあたって、努力されていることなどはありますか?

選手たちをよく観察することを心がけ、守備姿勢や投げ方、動き方などを学んで、ゴールボールという競技を理解しようと努めています。

また、分からないことや疑問に思ったことはそのままにせず、直接、選手やスタッフに聞くようにしています。選手はそれぞれ、自分を成長させようと努力しているので、日々変化しています。たとえば、投げるフォームや助走の歩数、守備姿勢など私にはまだ気づけない微妙な変化も多いので、直接、選手に確認します。

――変化に気づくことは大事なのですか?

大事ですね。たとえば、フォームの変更が調子の良し悪しに影響することもあります。変化に気づいて、フォームを変更したから調子が悪くなったのか、調子が悪いからそういうフォームになっているのかなどを判断し、早めに適切なアドバイスができるようになりたいと思っています。

また、ゴールボールはとても繊細な競技で、選手の細かい動きがプレーに大きく影響します。何気なく投げているように見えても選手たちは1球ごとにいろいろ考えながら高い精度で投げたり、守ったりしています。たとえば、投げ出しの位置や角度が想定よりもずれれば、狙ったボールは投げられないし、手や足の位置が数センチ違っただけでボールを止められず弾いてしまったりします。

――たしかに、それがゴールボールの面白さでもありますが、トレーナーとしては選手の動きを見て、どんなことを考えているのですか?

たとえば、可動域が狭まっていると動きも悪くなります。そのため、あと数センチという適切なポジションまで行けないこともあります。最大限のパフォーマンスが発揮できるようにするためにも、選手が常に動きやすい体でいられるようにコンディションを調整し、アドバイスができるようになれたらいいなと思います。

ただ、選手それぞれ体格も違うし、投げ方や守備のフォームも違うので個人の特徴もとらえていかなければなりません。しっかり観察して、もっと頑張りたいです。

■ベンチコーチとしても日々、奮闘

――日常的な体のケアだけでなく、試合にも大きく関わる「ベンチコーチ」という役割についてもう少し教えてください。活動を始めてからすぐに海外遠征にも行かれたと話していましたが、苦労した点などありますか?

2023年は女子の海外遠征に全て帯同させていただき、スウェーデン、イギリス、中国などに行きましたが、環境変化への対応に気を遣いました。とくに食事は体調への影響が大きく、選手によっては好き嫌いやアレルギーもあったりするので、エネルギー不足にならないよう、持ち込んだ食材などで対応することもありました。

また、移動や生活のサポートも行います。土地勘のない場所がほとんどなので、慣れるまでは私自身が周囲の状況をよく見て情報を細かく伝えなければなりません。

レストランなどでは選手にメニューも伝えますが、海外ではパッと見ただけでは食材や味が分からない料理も多く、言葉で分かりやすく伝えるのに苦労しました。選手ごとに好みも違うし、でも、ちゃんと食べてほしいし…。

――昨年はパリパラリンピック出場権がかかった重要な大会も多く、いろいろプレッシャーも大きかったのでは?

そうですね、プレッシャーはありました。でも、試合で勝てたときは嬉しくて、『この場にいられてよかった』という関われたことへの充実感も大きかったです。

――これまでで、とくに印象に残っている大会や試合はありますか?

去年の8月にイギリスで行われたワールドゲームズです。優勝すれば、パリパラリンピック出場が決まる重要な大会でしたが、準々決勝と準決勝が2試合連続でエキストラスロー(*)にまでもつれ込んで、しかも、両試合とも全員が投げても勝敗はつかず、2巡目に入ってようやく日本が勝ちました。

*サッカーのPK戦のような形で、勝敗を決めるために1対1で投げ合うスロー合戦

――エキストラスローが2試合連続するのも珍しいですし、しかも、負けたら終わりの決勝トーナメントでの劇的勝利。しびれましたよね。

本当に選手みんながかっこよくて、感動しました。もちろん、負けてしまう試合もありますが、悔しくて、次こそ絶対に勝ちたいという思いになります。勝利に向かってチーム皆で頑張っているところに、私も一員として関われることに喜びを感じています。

――今年2024年は、ゴールボール日本代表は男女ともパリパラリンピックが控えます。彼島さんにとっても活動2年目となりますが、どんな年にしたいですか?

男女ともにパリで金メダルが取れるように私自身ができることを増やしたいです。トレーナーとしての技術を高めたり、選手の細かい変化にも気づけるようになったり、ベンチトレーナーとしてもチームに貢献できるよう努力したいと思っています。

――彼島さんの挑戦にも期待しています。今日はありがとうございました。

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