鳥居陽生選手ロングインタビュー

今の「トコトン」は、ゴールボール! 「表彰台に立つ自分をいつもイメージしています」

鳥居陽生(とりい・はるき)選手プロフィール

ポジション

ライト

クラブチーム

ゴールデンスターズ

所属

国立障害者リハビリテーションセンター(学生)

2004年8月7日、神奈川県小田原市生まれ。幼少期から野球を始め、ピッチャーやショートなどで活躍。明徳学園相洋高等学校では野球部に入部するも、1年生の終わりにレーベル遺伝性視神経症と診断される。選手は断念したが、3年生で引退するまで野球部で活動。ゴールボールは高校2年生の秋頃から本格的に始め、3年生時にトップアスリート発掘事業(J-STARプロジェクト)に応募、選抜される。2023年から日本ゴールボール協会の強化指定選手に選出されるなど次世代のエース候補。競技と並行し、2023年4月から鍼灸・あんまなどの資格取得を目指し、国立障害者リハビリテーションセンターに在学中。

■興味をもったら、「トコトン」

――鳥居さんはゴールボールを始めてまだ2年弱で、10月22日開幕のアジアパラ競技大会で初の代表入りを果たすなど急成長を見せています。今日はその強さの秘密など、鳥居さんの魅力に迫っていきたいと思います。

はい、よろしくお願いします。

――まずは、8月のワールドゲームズでは日本男子代表が史上初の金メダルを獲得。同時にパリパラリンピックの出場枠もつかみました。先輩たちの活躍、鳥居さんはどう感じましたか?

はい、合宿で一緒に練習していた先輩たちが素晴らしいプレーで優勝し、パリへの切符も取って、自分のことのように嬉しかったです。思わず泣いてしまいました。選手一人ひとりのプレーすべてが勉強になりました。

――パリパラリンピックへの気持ちもまた、変化したのではないですか?

自分が出場枠を獲ったわけではないので言いにくいところもありますが、目標が確実になったので、そこに向けてより一層、力が入ってモチベーションが上がりました。技術面でも、もっとレベルを上げないと戦えないぞっていう気持ちになりました。

――なるほど。目標がより高く、具体的になったということでしょうか。その辺りはまた後で詳しく聞かせてください。まずは鳥居さんがゴールボールと出会うまでを順に教えてください。2004年に神奈川県のお生まれですが、どんな子ども時代だったのでしょうか。

母から聞いているのは、転んでも遊び続けるような泣かない子どもだったみたいです。あとは、興味をもったらトコトン熱中するけど、興味がなくなると、すっと気が変わってしまうところがありました。

――例えば、どんなことにトコトン熱中したのでしょうか。

野球ですね。幼稚園の年長から軟式の少年クラブチームに入りました。ポジションはピッチャーやショートで、肩には自信があります。中学からは硬式のシニアクラブに入って3年間プレーして、高校は野球推薦で神奈川県の明徳学園相洋高等学校に入学しました。

――ほんとに、トコトンですね。そもそも、どうして野球を始めたのですか?

はっきりしたきっかけは覚えていないのですが、家族が野球好きだったり、親戚に野球経験者が多かったことが影響したのかもしれません。気がついたら野球に夢中になっていました。

野球は投げる、打つ、捕る、走るなどやることが多いし、一人じゃできないチーム競技だったところも夢中になった理由だと思います。

――チーム競技という点はゴールボールにもつながりますが、高校の硬式野球部に入ったということは、目標は甲子園?

はい。甲子園に出たくて頑張っていました。でも、高校1年生の10月頃から急に、「目が悪いくなったのかな」と感じるようになったんです。部のミーティングで監督の顔がぼやけるようになったり、ピッチャーマウンドからキャッチャーのサインが見えにくかったり、キャッチボールでも少し遠い距離だとボールが見えなくて、手元に来てから見えて慌てて取るとかが増えていて、おかしいなと。

ある日、たまたま練習中に砂が目に入ってしまい全然取れないので、翌日病院に行ったんです。そこで視力検査をしてもらったら見え方がおかしいと指摘されて、それからは詳しい検査のために大学病院を回ったり、脳外科にも行きました。結局、レーベル遺伝性視神経症(レーベル病)と診断されて、甲子園の夢が絶たれてしまいました。

――かなり急な出来事で、大変でしたね。辛い記憶かもしれませんが、どのような心境だったのでしょうか。

11月に検査を受けて診断がつくまで2カ月くらいかかりました。その間に先生から視力が落ちた原因として心因性の病気やレーベル病の可能性についてお話がありましたが、自分としては心因性ではないなと思い、少しずつ気持ちの整理をつけることができました。野球は続けられないだろうから、他に何かできることはないかと探し始めたりしていたので、病名がはっきりしたときにはそこまで落ち込んだり、傷ついたりはなかったように思います。

ただ、診断がついた日、病院の帰りに立ち寄ったファミレスで母が泣いていたり、あとから合流した姉がスマホで調べて僕と同じ病気の人がパラスポーツをやっているという記事を見つけてくれたりしたことを覚えています。

――お姉さんの記事で、ゴールボールを知ったのですか?

いえ、その時はただ、パラスポーツという道もあるんだなと思ったくらいです。でも、将来のことを考えるきっかけになりました。

■衝撃的だった、ゴールボール体験

――ゴールボールは野球部員も続けながら、高校2年生で始めたようですね。

はい、野球部には高校3年生の引退までいました。監督さんに病気のことを報告して退部しようと思っていたのですが、「鳥居の頑張る姿が部員みんなのいい影響になるから」と励ましてもらい、「最後まで頑張ってみよう」と決心しました。全体練習には入れませんでしたが、練習のサポートや環境整備などできることに参加していました。

ただ、並行して筋力トレーニングも続けていたので、何かスポーツをやりたいなとは思っていました。強肩が活かせる競技としてやり投げを見つけましたが、僕の体格では難しいなと感じて、他にいい競技がないかなと探していた中で出会ったのがゴールボールでした。

――視覚障害のスポーツは他にもありますが?

高校の野球部のケアをしてくれているトレーナーさんから、「同じ病気の選手が治療に通ってきているよ」と教えてもらったのですが、その選手が(東京2020パラリンピックでゴールボール日本代表の)山口凌河さんで、それでゴールボールという競技を知りました。そこからいろいろな記事を検索して、チーム競技であることにまず魅力を感じました。

――で、すぐに始めたのですか?

いえ、しっかり始めたのは高2の冬からです。ちょうど進路相談の時期で、担任の先生が僕のために障害者対象の職業訓練校に出向いてくれて、そのときゴールボールもやりたい希望があると話してくれたんです。すると、その職業訓練校の生徒の中に神奈川県で活動するゴールボールクラブの方がいると紹介されて、後日体験会に参加させてもらえることになったのです。

ーー担任の先生のサポートで道が拓いたのですか!

はい、先生や高校のサポートにはとても感謝しています。学校にとって僕は初めての視覚障害者だったのですが、僕が病気になってからコントラストで物が見やすいようにと机を真っ黒に塗ってくれたり、授業にタブレット端末を導入してくれたりもしました。いろいろ支えてもらって、ここまで来ています。

――それは心強いサポートですね。では、ゴールボール体験会はどうでしたか?

11月に初めて体験会に参加しましたが、いろいろ衝撃でした(笑)。アイシェードを初めて着けて、「ほんとに真っ暗なんだー」って思ったり、ディフェンスの体験では横に寝てボールを止めることを教えてもらいましたが、ボールが真正面から来たときにどう止めればいいか分からず、僕はとっさに野球のキャッチャーのように構えて両手でキャッチしたんです。そうしたら、「なかなかいない」「普通は怖がる」と驚かれてしまいました。

――たしかに、あまり見たことがないキャッチの仕方ですね~。他には?

「ボールが当たると痛い」と聞いていましたが、僕はそれほど痛いとは思いませんでした。でも、アイシェードをして視覚を遮断された中で距離感やコートの感覚をつかむのは想像した以上に難しかったです。ラインテープの下に紐が入っていますが、最初はテープを触ってもどっちが前なのか分からないし、今までにない感覚のスポーツで、見るとやるとでは大きなギャップがありました。それも衝撃でしたね。

――それでも、やってみようと思ったのは?

見えないなかでメンバー3人が声をかけあってプレーすることが楽しかったし、心と心が通じ合うような競技だなと魅力を感じたからです。それに、大好きだった野球はできなくなったけど、自分がまた主役になれるかもしれないという嬉しさも感じました。もっとうまくなりたいと思って、そこからいろいろな体験会や大会に参加するようになりました。

12月には岐阜で開かれたゴールボールキャンプに参加しました。宮食行次選手など日本代表選手も参加していて、体験会とは違うレベルの高いゴールボールに触れることができました。「こんなレベルまでいけるんだ」とすごく刺激になりましたし、宮食選手には回転投げを約1時間じっくりと教えてもらって、すごく勉強になったし、ますますゴールボールの面白さを感じました。

その後、本格的にパラリンピックを目指したいとJ-STARプロジェクトにも応募して2022年から強化プログラムに入り、今年から協会の強化指定選手に選ばれました。

■世界の頂点を目指す日々

――競技と並行して、今年4月からは専門学校に入学し、鍼灸やあんまマッサージなどを学ぶ学生生活もスタートしました。勉強とゴールボールの両立は大変ではないですか?

学校の寮に住んで月曜から金曜まで授業を受けています。1年生は覚えることが多いので夜も部屋で勉強していることが多く、合間に自重トレーニングなどをしています。ゴールボールは週末の練習会か合宿で練習するのが基本で、行けるときは水曜と木曜夜の練習会にも参加しています。

――勉強も大変そうですね。

はい……。でも、ゴールボールにも役立つ授業もあって面白いです。例えば、解剖学では筋肉の位置や働きも学べるので、筋トレのときにどの筋肉に効いているかが理解できるようになりました。また、以前、先輩たちがゴールボールの動きを教えてくれた時には意味がよく分からなかった内旋や外旋などの用語は、授業に出てきてやっと意味が分かりました。

――へ~、授業の内容と競技がリンクするのはやりがいがありますね。他に、ゴールボールを始めてから自分自身に変化を感じるようなことはありますか?

野球に代わる生きがいを見つけられたので、出会えてよかったと本当に思っています。野球で甲子園を目指していたように、ゴールボールでもやるからには頂点を目指そうという強い気持ちで練習しています。

家族もすごく応援してくれていて、アジアパラ大会の代表に決まったことを報告したら、けっこうなリアクションで喜んでくれました。そういう反応を見るもの楽しみです。

――家族の応援は励みになりますね。喜ばせ続けられるように、練習で取り組んでいることはありますか?

4月に参加した韓国遠征で見つかった課題克服に取り組んでいます。ディフェンスでは守備位置の精度を高めること。オフェンスではグラウンダーをものにすることです。

――グラウンダーは床を這うように転がるボールのことですね?

はい。僕としてはバウンドボールのほうが投げやすいのですが、世界と戦うためには必要な技術だと思って、グラウンダーも練習を始めました。

ボールを床にたたきつけるときの入射角や姿勢の低さ、助走の仕方など、うまく速く転がすには細かい技術が必要なので難しいです。僕はまだ小バウンドになってしまいがちなんですが、球種が多いほうが相手に見せるボールや決め球として攻撃の幅が広がるので、投げられるようになりたいです。

――入射角? 鳥居さんって理系ですか?

いえ、文系です。もともと動画を見て競技の研究をするようなタイプでもなかったのですが、ゴールボールをやっていて繊細な競技であり、うまくなるためには分析や細かい部分を意識することが大事だと考え方も変わりました。たとえば、ボールをバウンドさせる位置がほんの少しずれるだけでボールの軌道が変わるので、入射角やバウンドの強さなどを意識するようになりました。

――野球時代も分析しながらプレーしていたのですか?

いえ、野球ではガッツが一番という感じで、フォームを意識することもあまりなく、とにかくこのコースに投げるぞという感じでやっていました。ゴールボールでもガッツは大事ですが、見えないなかで行うスポーツなので、世界に食い込んでいくには情報や分析は欠かせないと感じています。

――なるほど。より高みを目指すための、新たな取り組みなんですね。

■ポジティブに、つかんだチャンスは逃さない

――ところで、もし、視力が戻る薬があったら、鳥居さんは飲みますか? 目が治れば、プロ野球選手を目指す道も拓けるかもしれませんが。

そういうことは友だちに聞かれたことがありますが、今のところは飲むつもりはないです。今はゴールボールがすべてだし、今の僕からゴールボールを取ったら何も残りませんから。

金メダル獲得という目標達成後だったら、薬を飲むことも考えるかもしれませんが、まだ何も達成していないのに辞めるのは自分的には嫌です。ここまでゴールボールをやってきて、国を代表する選手になれるチャンスもある。今はそこをしっかりつかみたいです。

――なるほど、ゴールボールへの思いの強さを感じます。では、鳥居さんの性格的な長所を教えてください。

長所は明るいこと。何とかなるとか、失敗があるから成功につながるとか、ポジティブに考えられるところです。あとは挑戦する気持ち。あれこれ考えずに、とにかくやってみて食らいつくことがモットーです。

――そういうマインドだから、野球からゴールボールへとポジティブに気持ちを切り替えられたのかもしれませんね。では短所は?

ポジティブすぎるところ、ですかね(笑)。試合で負けた直後以外は落ち込むこともあまりないです。

――前向きさはアスリートには大事ですよね。では、今の時点でゴールボール選手として自分の強みと課題を教えてください。

強みはアグレッシブさとか、コートを動き回る運動量です。

課題は自分の動きと映像でみる理想の形とが今はまだずれているので、合致させていきたいです。そのためには自分の身体をうまく使いこなし、イメージ通りに動けるようになること。そうすれば、オフェンスでは投げたいコースに投げられるだろうし、ディフェンスも守りたいと思う範囲内に来たボールをちゃんと獲れるようになると思っています。

――憧れたり、目標とするアスリートはいますか?

ゴールボール選手では宮食選手や金子和也選手がウイングプレイヤーとしての目標です。また、メジャーリーガーの大谷翔平選手は身体の柔らかさやしなやかさなどが素晴らしく、力をボールにしっかり伝えて投げているところがゴールボールにもつながるなと思いながら見ています。

――それぞれ、日本を代表する選手たちですね。鳥居さんも今年から強化選手になり、アジアパラ大会の日本代表にも選ばれています。日本代表選手に対するイメージはありますか?

日本代表は国という大きなものを背負っていて、スポーツにおいてはトップの選手というイメージがあります。自分も日本代表にふさわしい選手になれるように、日本を背負っているという意識をもってプレーし、たとえば、僕と同じような病気の人にも勇気や元気を与えられるようなプレーをしたいなと思っています。

――改めて、これからの目標を教えてください。

まずはアジアパラ大会で自分のパフォーマンスをしっかり出すこと。パリに向けて、つかんだチャンスを逃さないように、どんな形であれチームの勝利に貢献したいです。

個人的には初めての国際大会なので、ディフェンスでは海外選手の聞き慣れないボールの音をたくさん聞くこと。オフェンスではこのボールは効く、これは効かないなど自分の投げるボールに対する海外選手の反応を見たいです。

――プレーの経験を広げ、これからに生かしたいということですね。アジア以降での目標も教えてください。

大きな目標は金メダルを獲ることで、表彰台に立っている自分をいつもイメージしています。狙えるならパリパラリンピックで初優勝。そして、次のロサンゼルス大会では初連覇を狙えたらと思っています。とにかく挑戦して、いろいろな初めてをこれからどんどん経験していきたいです。

――力強い目標宣言、ありがとうございます。これからのご活躍、楽しみにしています。

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